最大80万円!中小企業が活用すべき「キャリアアップ助成金」

企業が持続的に成長するためには、優秀な人材の確保と生産性の向上が欠かせません。これは国全体の大きな課題でもあり、各企業にはこれまで以上に「人材への投資」と「生産性改善」が求められています。
しかし実際には、「よい人材を採用したいけれど、人件費が重くて踏み切れない」という声も多く聞かれます。そのような場面で心強い支援策となるのが、「キャリアアップ助成金」です。

この制度では、派遣社員・パート・アルバイトなどの非正規で働く方を正社員へ登用した企業に対して、国が助成金を支給します。その中の「正社員化コース」を活用すれば、1人あたり最大80万円の助成金を受けることも可能です。

一方で、キャリアアップ助成金は 毎年制度内容が更新され、要件や申請書類が複雑化しているため、正しい手順を踏まないと不支給につながるリスクもあります。

この記事では、2025年時点の制度内容に基づき、キャリアアップ助成金(正社員化コース)の申請手続きの流れや必要書類について解説します。

目次

キャリアアップ助成金の概要

「キャリアアップ助成金」は、非正規雇用労働者の企業内でのキャリアアップを促進するため、正社員化、処遇改善の取り組みを実施した事業主に対して助成金を支給する制度です。キャリアアップ助成金には、キャリアアップの種類によって7つのコースが用意されています。(令和7年12月現在)

分類コース名概要
正社員化支援正社員化コース有期雇用労働者等を正社員へ転換する場合に支援
障害者正社員化コース障害のある有期雇用労働者等を正規雇用労働者等に転換
処遇改善支援賃金規定等改定コース有期雇用労働者等の基本給を、賃金規定改定により3%以上増額
賃金規定等共通化コース有期雇用労働者等と正規雇用労働者との共通賃金規定を新たに整備・適用
賞与・退職金制度導入コース有期雇用労働者等に賞与または退職金制度を導入し、支給または積立を実施
社会保険適用時処遇改善コース
(令和8年3月31日まで)
有期雇用労働者等を新たに社会保険に適用し、収入増(手当・賃上げ・労働時間延長)または週所定労働時間延長を行う
短時間労働者労働時間延長支援コース
(令和7年7月1日新設)
新たに社会保険適用となる有期雇用労働者等に対し、労働時間延長等により収入を増加させる

今回は、その中でも主要な「正社員コース」をご紹介します。

キャリアアップ助成金(正社員化コース)とは?

キャリアアップ助成金(正社員化コース)は、就業規則または労働協約その他これに準ずるものに規定した制度に基づき、有期契約労働者等を正規雇用労働者に転換等をした場合に助成金が支給されます。

従来は、1回の申請で最大額まで助成金を受け取ることができましたが、2024年(令和6年度)からは制度が改定され、1回あたりの上限は40万円に変更されました。そのため、2回に分けて申請することで、合計最大80万円まで受給できる仕組みになっています。さらに2025年度からは、2回目の申請ができる対象が絞られ、「重点支援対象者」に該当する場合のみ、2回目の申請が可能となりました。

正規雇用労働者の定義

キャリアアップ助成金(正社員化コース)での正規雇用労働者の定義は【同一の事業所内の正規雇用労働者に適用される就業規則が適用されている労働者で、「賞与または退職金の制度」かつ「昇給」が転換時点で適用されている者に限る。】とあり、「賞与または退職金の制度」かつ「昇給」のある正規雇用労働者への転換が必要となります。

また支給対象期間中に実施が予定されている「賞与」「昇給」等が適用されていない場合、正規雇用労働者の要件を満たさず、支給対象とならない場合があります。

重点支援対象者とは?

重点支援対象者とは、以下のいずれかに該当する方です。

  • a:雇入れから3年以上の有期雇用労働者
  • b:雇入れから3年未満で、次の①②いずれにも該当する有期雇用労働者
    ①過去5年間に正規雇用労働者であった期間が合計1年以下
    ②過去1年間に正規雇用労働者として雇用されていない
  • c:派遣労働者(注1)、母子家庭の母等または父子家庭の父、人材開発支援助成金の特定の訓練修了者(注2)
    (注1)派遣労働者を派遣先で正社員として直接雇用する場合
    (注2)人材開発支援助成金の特定の訓練修了者

また雇用された期間が通算5年を超える有期雇用労働者については無期雇用労働者とみなされ、これまで新規学卒者も対象となっていましたが、新規学卒者は雇入れから一定期間経過していない者については支給対象外となります。

新規学卒者の取扱いについて
支給対象外期間対象労働者が新規学卒者であり、雇入れ日から1年を経過していない者は支給対象外
例:令和7年4月1日に雇用した場合 → 令和8年3月31日まで支給対象外
「新規学卒者」とは学校・専修学校・職業能力開発促進法第15条の7第1項に掲げる施設 職業能力開発総合大学校 を新たに卒業しようとする者及び卒業年度の3月31日までに内定を得た者
支給対象となるケース以下の場合は支給対象となり得る
例:3月15日に卒業式を迎えたが就職先が決まっておらず、4月2日以降に就職先が決まり、5月に就職した者

助成金の支給額

雇用される期間が6か月以上の有期雇用労働者、無期雇用労働者、または有期派遣労働者、無期派遣労働者を正規雇用労働者等に転換または直接雇用した場合に助成されます。助成額は有期・無期によって異なり、1人当たりの助成額は以下のとおりとなり、1年度1事業所当たりの支給申請上限人数は20名です。

対象者区分企業規模有期雇用 → 正規雇用無期雇用 → 正規雇用
重点支援対象者中小企業80万円(40万円×2期)40万円(20万円×2期)
大企業60万円(30万円×2期)30万円(15万円×2期)
上記以外中小企業40万円(40万円×1期)20万円(20万円×1期)
大企業30万円(30万円×1期)15万円(15万円×1期)

正規雇用に転換したあと、6ヶ月継続して雇用すると1期目として申請できます。その後、重点支援対象者に限って、さらに6ヶ月継続して雇用すると2期目として申請できます。また以下のケースに該当すると助成金が加算されます。

措置内容加算額
正社員転換制度を新たに規定し転換した場合
(1事業所あたり1回のみ)
20万円(大企業15万円)
多様な正社員制度(勤務地限定・職務限定・短時間正社員いずれか1つ以上)を新たに規定し転換した場合
(1事業所あたり1回のみ)
40万円(大企業30万円)

対象となる従業員

次のいずれかに該当する従業員が、正社員化コースの対象です。

  • 支給対象となる事業主に、賃金の額または計算方法が正規雇用労働者と異なる雇用区分の就業規則等の適用を通算6ヵ月以上受けて雇用される有期雇用労働者または無期雇用労働者
  • 6ヶ月以上継続して同一の業務に従事している有期派遣労働者または無期派遣労働者
  • 支給対象となる事業主が実施した有期実習型訓練(人材開発支援助成金(人材育成支援コース)によるものに限る。)を受講し、修了した有期雇用労働者等であって、支給対象事業主に、賃金の額または計算方法が正規雇用労働者等と異なる雇用区分の就業規則等の適用を通算6か月以上受けて雇用される者

ただし、上記の①から③までのいずれかに当てはまる場合でも、次に該当する場合は対象になりません。

  • 正規雇用労働者になることを約束されて雇入れられた有期雇用労働者の場合
  • 正社員化の前日から過去3年以内に、同一事業所または資本的・経済的・組織的関連性からみて密接な関係(親会社や子会社等)の事業主に正規雇用労働者として雇用されたことがある場合
  • 正社員化を行った事業所の事業主または取締役の3親等以内の親族の場合
  • 支給申請日において、離職している場合
  • 正社員化後に定年制が適用される場合、定年までの期間が1年未満の場合 など

対象となる事業主

助成金の申請対象となる事業主には、いくつかの細かな条件が定められています。ここでは、その中でも特に重要なものを整理してご紹介します。

  • キャリアアップ管理者を配置し、キャリアアップ計画書を作成して労働局の認定を受けること
  • 有期雇用労働者等を正規雇用労働者に転換する制度を就業規則または労働協約その他これに準ずるものに規定している事業主であること
  • 上記①の制度の規定に基づき、雇用する有期雇用労働者等を正社員化した事業主であること
  • 上記②により正社員化された労働者を、正社員化後6か月以上の期間継続して雇用し、当該労働者に対して正社員化後6か月分の賃金を支給した事業主であること。第2期支給申請の場合は、正社員化後、12か月以上継続雇用し、正社員化後12か月分の賃金支給した事業主であること
  • 正社員化後6か月間の賃金を、正社員化前6か月間の賃金より3%以上増額させている事業主であること。第2期支給申請の場合は、第1期の賃金と比較して、第2期の賃金を、合理的な理由無く引き下げていないこと
  • 正社員化した日以降、当該労働者が社会保険の適用要件を満たす事業所の事業主に雇用されている場合、社会保険の被保険者として適用させていること など

キャリアアップ助成金の支給申請までの流れ

正社員化コースの手続きは、まずキャリアアップ計画書の作成・提出から始まり、その後の申請手続きを経て助成金の受給へと進みます。ここでは、正社員化コースを利用する際の具体的な流れをご紹介します。

手順内容
手順①キャリアアップ計画書を作成し、労働局へ提出
3〜5年の計画期間を設定し、正社員転換の時期・目標・取組内容をまとめた計画書を作成し、正社員転換を行う前日までに提出する必要があります。
手順②就業規則に転換制度を規定し、労働基準監督署へ届け出
転換制度を就業規則に明記し、労働者代表の意見聴取のうえ労働基準監督署へ届け出る必要があり、施行日は正社員転換日より前である必要があります。
手順③制度に沿って対象労働者を正社員へ転換
就業規則に定めた方法(試験・面談など)で選考し、合格後に正社員用の労働条件通知書を交付します。規定と異なる方法で転換すると助成金の対象外となる可能性があります。
手順④-1正社員転換後6か月間の雇用継続 → 1期目の支給申請(重点支援対象者の場合)
6か月分の賃金支給後、翌日から2か月以内に1期目の申請をします。転換前6か月との比較で賃金が3%以上増額している必要があります。
手順④-2正社員転換後12か月間の雇用継続 → 2期目の支給申請(重点支援対象者の場合)
12か月分の賃金支給後、翌日から2か月以内に2期目の申請をします。1期目の支給申請で不支給決定を受けた後は、2期目の申請はできません。
手順⑤審査 ・ 支給決定
提出した労働者名簿、賃金台帳、出勤簿、雇用契約書、就業規則などから法令違反がないか審査され、申請から支給決定まではおおむね約6か月かかり、その後助成金が振り込まれます。

支給申請に必要な書類等

キャリアアップ助成金(正社員化コース)では、提出しなければならない書類が多岐にわたります。さらに、必要書類や様式は毎年変更されるため、厚生労働省の公式サイトで最新の情報を確認し、必ず最新様式を使用することが重要です。正社員化コースの申請では、主に次の書類が必要となります。

  • キャリアアップ助成金支給申請書(様式第3号)
  • 正社員化コース内訳(様式第3号・別添様式1-1)
  • 正社員化コース対象労働者詳細(様式第3号・別添様式1-2)
  • 支給要件確認申立書(共通要領様式第1号)
  • 支払方法・受取人住所届(未登録の場合に限る)
  • 労働局の認定を受けたキャリアアップ計画書(写)
  • 転換前後の労働協約(写)または就業規則(写)
  • 対象労働者の転換前後の雇用契約書または直接雇用後の労働条件通知書または雇用契約書(写)
  • 対象労働者の転換前後の賃金台帳(写)
  • 賃金3%以上増額に係る計算書
  • 対象労働者の転換前後の出勤簿またはタイムカード(写)
  • 中小企業事業主であることの確認書類

上記以外にも、追加で必要となる書類や、労働局独自の様式を求められる場合がありますので、事前の確認が必要です。

申請する際に注意すべきポイント

キャリアアップ助成金を申請する際には、いくつか注意すべきポイントがあります。実務の中では見落としやすい部分も多く、次のような事例が原因で不支給となるケースも見受けられます。

  • キャリアアップ計画書を提出する前に正社員化してしまった
  • 転換前後の賃金アップ率が3%に満たない(または計算方法が誤っている)
  • 就業規則と雇用契約書で、正社員の定義や処遇が食い違っている
  • 賃金台帳・出勤簿の記録が不自然で、実態が確認できない
  • 社会保険の加入要件を満たしているのに、未加入のままになっている
  • 申請期限(6か月経過後2か月以内)を過ぎてしまった

「せっかく正社員化したのに助成金が受けられなかった」ということにならないよう、事前の準備とスケジュール管理が非常に重要です。

企業さまから頻繁にいただくご相談

  • 有期雇用労働者を正社員にしたいが、どのタイミングで計画書を出せばいいか分からない
  • 就業規則に「正社員転換」の条文がなく、どのように書けばいいか不安
  • 賃金の3%アップを、どこまで含めて計算してよいか分からない
  • 事務担当が少なく、助成金の申請書類を作る余裕がない
  • 正社員の定義(所定労働時間・手当)があいまいで、制度の見直しから相談したい

このような場合は、事前に相談いただくことで、不支給リスクを抑えながら制度を活用しやすくなります。

当事務所のサポート内容

キャリアアップ助成金(正社員化コース)に関して、当事務所ではサポートを幅広く行っており、申請手続きに不安がある場合や、要件の確認から相談したい場合は、お気軽にご相談ください。

  • 助成金の対象になるかどうかの要件チェック
  • キャリアアップ計画書の作成・提出
  • 就業規則・賃金規程の整備(正社員転換制度の明文化)
  • 賃金の3%アップの試算・賃金テーブルの作成
  • 正社員転換のタイミングや進め方についてのアドバイス
  • 申請書類の作成、労働局とのやり取り
  • 他の助成金や補助金との組み合わせ提案

※本記事は、厚生労働省「キャリアアップ助成金のご案内」等の公開資料をもとに作成しています。制度内容は年度により変更される場合がありますので、最新情報は厚生労働省のホームページ等でご確認ください。

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